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研究成果

Roscovitineによるin vitroでのJCウイルス感染の抑制

北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター分子病態・診断部門 澤 洋文



 CDK 拮抗剤であるRoscovitineは、抗癌剤としての効果に加えて、宿主細胞内でCDKを利用しているウイルスに対する抗ウイルス効果が報告されている。本研究では、RoscovitineによるJCウイルスに対する感染抑制の効果を検討した。

図1:JCウイルス感染による宿主細胞の細胞増殖並びに細胞死に対するRoscovitineの抑制効果。JCV感染許容細胞であるヒト神経芽細胞腫由細胞にJCウイルス感染後8日目からRoscovitineまたは、対照としてDMSOを培地中に加え、細胞増殖並びに細胞死を検討した。その結果、DMSO処理を行った細胞ではJCV感染後20日前後から細胞死が観察され、30日までに細胞はほぼ死滅したが、Roscovitine処理した細胞は増殖を続け細胞死は認められなかった。

図2:Roscovitine のウイルス感染価に対する影響。IMR-32細胞由来のJCV持続感染細胞であるJCI細胞を用いて、Roscovitineのウイルス感染価に対する影響を赤血球凝集能を測定することにより検討した。Roscovitine処理により、JCI細胞のウイルス感染価は、対照群の約10%に低下した。

本研究により、Roscovitineはin vitroの実験系においてJCVの複製を低下させ、その増殖を抑制し、またJCVによるcytopathic effectも抑制することが明らかになった。JCVによって惹起される進行性多巣性白質脳症に対する治療法は未だ確立していないが、本研究によりRoscovitineはJCVに対する抗ウイルス薬の候補として有用である可能性が示唆された。

参考文献:Orba Y, Sunden Y, Suzuki T, Nagashima K, Kimura T, Tanaka S, Sawa H*: Pharmacological cdk inhibitor R-Roscovitine suppresses JC virus proliferation.? Virology (2008) 370: 173-183.

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