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プリオン病/亜急性硬化性全脳炎(SSPE)/進行性多巣性白質脳症(PML)とは

プリオン病とは

濱口 毅(金沢大学 脳神経内科)

Creutzfeldt-Jakob病(Creuzfeldt-Jakob disease: CJD)に代表されるプリオン病は、脳における海綿状変化と異常プリオン蛋白(scrapie prion protein:å PrPSc)蓄積を特徴とする感染症で、同種間あるいは異種間で伝播します。ヒトのプリオン病は、病因から孤発性CJD(sporadic CJD: sCJD)、遺伝性プリオン病、獲得性プリオン病に分類され、その有病率は人口100万人あたり年間約1人とされています。プリオン病はPrPScを介して同種間や異種間を伝播すると考えられており、通常の殺菌法や消毒法が無効であるため、医療現場における2次感染予防の面からも、その早期診断は重要です。

sCJDはプリオン病を発症した原因が不明のもので、わが国のプリオン病全体の76.0%を占めます。sCJDの約70%は、急速な進行の認知症やミオクローヌス、脳波での周期性同期性放電(periodic synchronous discharge: PSD)(図1)の出現など典型的なsCJD病像を呈し、WHOのsCJD診断基準(表1)により臨床的にほぼ確実例と診断できます。頭部MRI拡散強調画像(diffusion weighted image; DWI)の皮質および基底核高信号(図2)、脳脊髄液14-3-3蛋白陽性を認めることが多いです。

遺伝性プリオン病は、遺伝性CJD、Gerstmann-Sträussler-Scheinker病(Gerstmann-Sträussler-Scheinker disease: GSS)、致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia: FFI)の3病型に大別されます。プリオン病を疑う神経症候を認め、PrP遺伝子検査で異常を認めれば診断が可能です。わが国に多いV180IあるいはM232R変異を有する遺伝性CJDについては家族歴がほとんどなく、家族歴がないことで否定できません。

獲得性プリオン病にはパプアニューギニアの儀式的食人から感染したクールー、医療行為により感染した医原性プリオン病、ウシ海綿状脳症からヒトへの感染の可能性が考えられている変異型CJD(variant CJD: vCJD)が含まれます。
わが国の獲得性プリオン病はvCJDの1例を除き全例が硬膜移植後CJD(dura mater graft-assocated CJD: dCJD)で、現在までに156例が確認されています。

プリオン病の診断は、経過・身体所見からプリオン病を疑うことから始まります。その後、脳波、頭部MRI、脳脊髄液検査等の結果を参考にしながら臨床診断に至ります。PrP遺伝子検査は、遺伝性プリオン病の診断あるいは遺伝性プリオン病を否定するために必要であり、さらにsCJDにおいてもコドン129多型を知ることは、病型を推定する上で重要です。また、硬膜移植歴等のプリオン病伝播の可能性のある医療行為の既往やvCJD多発地域等の海外渡航歴の確認も必要です。それらの情報を元に、診断基準(表1)を参考にしながら臨床診断を行います。

現時点では、プリオン病に対する有効な治療法はありません。非侵襲的医療行為、看護や介護スタッフの日常的な接触ではプリオン病感染の危険性はなく、標準予防策で十分です。隔離は不要であり、一般病棟で看護ケアを行うことができます。入浴は一般患者と共用の浴室で構いません。

表1. 孤発性CJDの診断基準

  1. 従来から用いられている診断基準(Mastersら,1979ほか)
    1. 確実例(definite)
      特徴的な病理所見,またはウェスタンブロット法や免疫染色法で脳に異常プリオン蛋白を検出
    2. ほぼ確実例(probable)
      1. 進行性認知症
      2. 次の4項目中2項目以上を満たす.
        1. ミオクローヌス
        2. 視覚または小脳症状
        3. 錐体路または錐体外路徴候
        4. 無動性無言
      3. 脳波にて,周期性同期生放電(PSD)を認める
    3. 疑い例(possible)
      上記のBの1および2を満たすが,脳波上PSDがない場合
  2. 拡大診断基準(WHO, 1998)
    上記の診断基準のCの疑い例(possible)に入る例で,脳波上PSDがなくても,脳脊髄液中に14-3-3蛋白が検出され,臨床経過が2年未満の場合,ほぼ確実例(probable)とする.

図1. 周期性同期性放電(periodic synchronous discharge: PSD)



黒岩義之先生(財務省診療所健康管理医/ 横浜市大名誉教授・客員教授/ 東京都医学総合研究所理事/ 冲中記念成人病研究所評議員/帝京大学附属溝口病院脳神経内科客員教授・脳卒中センター長)よりご提供頂いた

図2. 孤発性Creutzfeldt-Jakob病の頭部MRI拡散強調画像(diffusion weighted image; DWI)の皮質および基底核高信号

プリオン病診療ガイドライン2017

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