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亜急性硬化性全脳炎(SSPE)

SSPEとは

SSPE治療研究グループ事務局:福島県立医科大学小児科学教室 細矢光亮
(Tel:024-547-1295、Fax:024-548-6578)

1. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)とは

亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis) は、その頭文字をとってSSPEともいわれています。麻疹(はしか)に感染してから数年の無症状の期間を経て、微細な神経症状が現れます。発病後は数か月から数年の経過(亜急性の経過)で徐々に神経症状は悪化し、数年から十数年で死に至る重篤な疾患です。

通常のウイルス感染が数日から数週の間に発症するのに対し、このように潜伏期間が数年と長く、ゆっくりと進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼びますが、SSPEはその代表的な病気の一つです。

2 SSPEの発生頻度

麻疹に罹患した人の数万人に1人がSSPEを発症します。現在、国内に150人くらいとされています。年間発症数は、以前は10-15人くらいでしたが、麻疹ワクチンの普及後は減少し、最近では年間5-10人です。

SSPEを発症するのは、1歳未満に麻疹に感染した場合や免疫機能が低下している状態(ステロイドホルモン、免疫抑制剤、抗がん剤などを長期に使用しているような状態)で麻疹に感染した場合に多いのが特徴です。男女比は2:1くらいでやや男児に多いとされています。SSPEを発症する好発年齢は学童期で、全体の80%を占めます。

世界的なSSPEの発症をみますと、麻疹ワクチンの普及が徹底している欧米諸国では麻疹の流行はほとんどなく、したがってSSPEも見られなくなっています。ワクチン接種率の低い国ではSSPEが発生しています。SSPEの予防は麻疹にかからないことですので、麻疹ワクチン接種が最も重要なことです。日本の麻疹ワクチン接種率は欧米に比べて低く、ワクチン接種を徹底することが急務です。

3 SSPEの発症機序

SSPEの発症メカニズムはまだ正確には判っていませんが、発症に関与する要因として宿主側のものとウイルス側のものがあります。

1歳未満で麻疹に罹患した場合や免疫機能が低下している状態で麻疹に罹患した場合にSSPEを発症する割合が高くなります。このことから、中枢神経系がまだ十分発達していない幼少期に麻疹に感染すると、免疫系の監視システムが充分に働かない場合には、中枢神経系に持続感染してしまうのではないかと考えられています。

SSPEの患者さんから分離されるウイルスは通常の麻疹ウイルスとは性状を異にしており、SSPEウイルスと呼ばれています。SSPEウイルスは、野生型の麻疹ウイルスと比べると、ウイルス粒子の形成と細胞からの遊離に重要なMタンパク質をつくるM遺伝子に特有の変異が生じています。SSPEウイルスではMタンパク質の機能が失われており、感染性のある遊離ウイルス粒子を産生せず、隣り合う細胞を融合させて感染がゆっくり拡大していきます。

どのような宿主因子が麻疹ウイルスの持続感染を許すのか、感染した麻疹ウイルスがどのようにしてSSPEウイルスに変異するのかなど、まだわからないことが沢山あります。SSPEの発症メカニズムの解明は、SSPEの発症リスクの予測やSSPEの新しい治療法の開発などに結びつくものと期待されます。

4 SSPEの臨床症状

初発症状としては、学校の成績低下、記憶力の低下、いつもと違った行動、感情不安定といった精神的な症状や、歩行が下手になった、もっているものを落とす、字が下手になった、体ががくんとなる発作(失立発作)が起こるなどの運動性の症状で気がつかれることが多いです。このような症状から、初期には心因反応、精神病、てんかん、脳腫瘍などと間違われることがあります。

SSPEの患者さんは、発症後は同じような経過をとる傾向があります。通常、4つのステージに分けられています。

第Ⅰ期: 軽度の知的障害、性格変化、脱力発作、歩行異常などの症状がみられます。
第Ⅱ期: 四肢が周期的にびくびくと動く不随意運動(ミオクローヌス)がみられるようになり、知的障害が次第に進行し、歩行障害など運動障害も著明になってきます。
第Ⅲ期: 知能、運動の障害はさらに進行して、歩行困難となり、食事の摂取も出来なくなります。この時期には体温の不規則な上昇、唾液分泌の亢進、発汗異常などの自律神経の症状がみられるようになります。
第Ⅳ期: 意識は消失し、全身の筋肉の緊張は著明に亢進し、ミオクローヌスも消失し、自発運動もなくなります。

全経過は通常数年ですが、3-4ヶ月で4期にいたる急性型(約10%)や、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)もあります。

5 SSPEの臨床検査所見

診断に有用な特徴的な検査所見としては以下のようなものがあります。

  1. 血清の麻疹抗体価の上昇:血液中の麻疹抗体が著しく上昇しています。
  2. 髄液麻疹抗体価の上昇:髄液中に麻疹抗体が証明されれば診断的意義は高いとされます。
  3. 脳波検査:とくにⅡ期からⅢ期にかけて周期性同期性高振幅徐波結合と呼ばれる特徴的な脳波所見を認めます。

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