プリオン病/亜急性硬化性全脳炎(SSPE)/進行性多巣性白質脳症(PML)とは
プリオン病の診断支援
堂浦克美(東北大学大学院医学系研究科プリオン蛋白分子解析分野)
プリオン病の診断に役立つ髄液検査や血液検査には、髄液NSE測定、髄液14-3-3蛋白測定、髄液tau蛋白測定と血液細胞を用いたプリオン蛋白遺伝子検査があります。
髄液中のNSE、14-3-3蛋白、tau蛋白の増加は、プリオン病で起こる神経細胞の破壊に伴ってこれらの蛋白が神経細胞から髄液中に遊離してくることを反映しています。神経細胞の破壊を伴う他の神経疾患でも同様に、髄液中にこれらの蛋白の増加が観察されますので、必ずしもプリオン病に特異的な検査ではありません。髄液NSE測定は外注検査会社で行われています。髄液14-3-3蛋白測定と髄液tau蛋白測定は現在長崎大学にて一箇所にまとめ、測定しております。
長崎大学検体の送付方法などの詳細は、各ホームページを参照、あるいはメールアドレス宛に問い合わせください。
血液中の白血球を用いたプリオン蛋白遺伝子検査は、遺伝性(家族性)プリオン病の診断を確定するのに必要な検査です。家族歴に同様な疾患の発生がなくても遺伝性(家族性)プリオン病である可能性はあります。その際、プリオン蛋白遺伝子検査はプリオン病診断に役立ちます。また、健常人にも観察されるプリオン蛋白遺伝子の多型(129番アミノ酸の多型、219番アミノ酸の多型)は、そのタイプによりプリオン病の臨床像や病型にも関係しています。プリオン蛋白遺伝子検査は遺伝性(家族性)プリオン病以外のプリオン病の診断にも役立ちます。この検査は東北大学などで行われています。検体の送付方法などの詳細は、ホームページを参照ください。
剖検・病理診断
村山繁雄(東京都高齢者研究福祉振興財団 東京老人総合研究所
老人病のゲノム解析研究チーム・高齢者ブレインバンク)
クロイツフェルトヤコブ病(CJD)は、今のところ、確定診断は、患者の死後、剖検を行い、脳を病理学的に検索しないと、確定診断はつきません。典型的なCJDは、急速に進行する脳障害を呈するため、他の疾患との鑑別が比較的容易ですが、急性脳炎や脳症が、CJDと誤診されることは、しばしば経験されます。また、世界の発症者のほとんどが英国である、変異型CJDは、経過が比較的緩徐であり、日本では1例のみの確認ですが、疑い例は常に報告され、その度に否定されています。また、遺伝子変異による家族性CJD、硬膜移植によるCJD、孤発性CJDの中にも、緩徐進行型が存在し、アルツハイマー病や、パーキンソン病などの、やはり原因が分かっていない、他の中枢神経系変性疾患との鑑別は、剖検などによる病理学的診断を行わないと、不可能です。
CJDの原因と考えられている、プリオンは、病理学的検索時に、検体を固くし、感染性をなくす、固定と呼ばれる用途に一般に用いられる、ホルマリンという薬液でも感染性が失われないため、蟻酸という、プリオンの構造を壊してしまう薬液につけて処理する必要があります。また、人から人への伝播として、これまで確実なのは、処理不十分のヒト死体硬膜・角膜移植、死体下垂体より抽出したホルモン補充療法、非処理ヒト組織移植に限られておりますが、病理検査技師が発症したらしいという報告が存在することより、一般病院に限らず、大学病院でも、剖検が病理側より拒否されるところが多いのが現状です。
この状況に対応するため、厚生労働省では、班会議を通じ剖検援助費を出すほかに、今年度より、都道府県がプリオン病剖検援助法を制定した場合、半額を援助することを決定しました。
プリオン病は、牛海綿状脳症の例もあるように、食の根幹をゆるがしかねない脅威を持っています。医療は本来、感染を受ける可能性があるところで、人類に貢献することで、尊敬を得てきたことは、米国で最も尊敬されている日本人の医者が野口英世であることを見ても、明らかです。
この援助法が制定されることで、CJDの剖検可能な病院が0である県が存在するとい事態が改善され、CJDの医療に進歩が得られることを、期待しています。